なぜラーメンの日高屋はマクドナルドと吉野家の隣にあるのか

敵を集客に利用する究極のコバンザメ戦略

あえて外食産業の王者と店を並べる日高屋  

夜の駅前の繁華街。一杯飲んだ後にラーメンというのはビジネスマンの定番コースですが、以前はよく目にした屋台のラーメン屋にとんとお目にかかれなくなりました。

その代わり、最近よく目立つのがラーメンチェーンの新興勢力「日高屋」です。  

日高屋は中華そば390円、ギョーザ190円と懐事情の厳しいサラリーマンにとって気軽に利用できるとてもありがたい存在。
業績も好調で2011年2月期決算では、売上高248億円、営業利益31億円と8期連続の最高益を更新中です。  

そんな日高屋ですが、店の周りを見渡すと必ずマクドナルドや吉野家があるのをご存じでしょうか。  

「駅前の繁華街なんだから、偶然軒を並べていたっておかしくないじゃないか」とお感じになるかもしれません。

しかし偶然ではありません。日高屋は外食産業として競合する2社の店舗の近くに意識的に出店しているのです。競合店の近くに出店したら、お客が入らないと普通は考えるでしょう。ましてや相手は外食産業の巨人、マクドナルドと吉野家。日高屋より歴史も古く、固定ファンもたくさんいて、売上高、店舗数ともに日高屋の数倍もある。そんな外食の絶対王者の近くに新興の日高屋がわざわざ店を出している理由は何でしょうか。  

今回はこの日高屋の出店戦略を「敵の強さを利用する“コーペティション戦略”」で解き明かしていきます。

コバンザメ商法で出店すれば、 立地調査をする費用がかからない  

日高屋(会社名:ハイデイ日高、東証一部)は現会長の神田正氏が1973年に埼玉県でラーメン店を開店したのがルーツで、1993年に東京に進出し、1999年には株式を公開。今では首都圏を中心に約270店舗を構えるまでに急成長を遂げています。  

この日高屋の成長を支えてきたのが独自の出店戦略。その出店戦略とは、先行して多店舗展開していたハンバーガーのマクドナルドや牛丼の吉野家の近くに店を出す、というものです。マクドナルドはハンバーガーチェーンで長年トップの存在、吉野家も最近は勢いが衰えていますが、かつては牛丼チェーンでトップを走っていた存在。そんな2社の近くに日高屋が意識的に店を出すのは、いかにも無謀な戦いを挑んでいるように思えます。  

ところがそこには創業者神田氏の類まれな洞察力と長年の経験に裏打ちされた戦略が隠されています。 マクドナルドや吉野家には、ファン、固定客がついています。でもいくらマクドナルドや吉野家が好きな人でも、朝昼晩の3食をすべてハンバーガーや牛丼で済ませる人はいないでしょう。朝にマクドナルドを食べたら、昼は牛丼、そして夜はビールでも飲みながらギョーザを食べて、締めはラーメンというのがありがちなパターンではないでしょうか。神田氏はそこに目をつけ、一見強力な競合相手となりそうなマクドナルドや吉野家の店舗の近くに日高屋を出店していきました。  

また、マクドナルドや吉野家は出店の際に綿密に立地条件を自社で調査しています。駅の乗降客数や人の流れを見極め、家賃相場なども踏まえながら、店が採算に乗るかどうかを2社がすでに検討してくれています。自社で行えば人手もお金も時間もかかる立地調査はすでに2社がやってくれているというわけで、日高屋はそれらを節約しながら出店する場所を決められる、というメリットもありました。  

本来強敵となるはずの競合他社でしかも業界の盟主の地位にある、できればまともな戦いは避けたい相手をうまく利用した見事な“コバンザメ戦略”です。

競争しながら協調する「コーペティション戦略」は ゲーム理論から生まれた  

さて、この日高屋の出店戦略を経営戦略的に分析してみます。

分析に使うのは“コーペティション戦略”です。 コーペティション(Co-opetition)戦略とは、
2人のアメリカの経営学者、ブランデンバーガーとネイルバフが提唱したもので、
Competition(競争)とCooperation(協調)をつなぎ合わせた造語です。

競争と協調を使い分けながら、自社の戦略を組み立て、実行していく、
ゲーム理論アプローチの一種です。

本来、競合する企業は自社にとって、利益を奪い合い、勝つか負けるかの戦いを繰り広げるライバル関係にあります。ところが一方で、規格競争が起こったり、新たな市場を拡大していく過程や地域間の集客競争の観点では、協調関係が成り立つこともあります。  

たとえば最近では高画質DVDの規格競争で、ソニーとパナソニックのブルーレイディスク(BD)陣営と東芝のHD DVD陣営が主導権争いを演じました。普段はライバル関係にあるソニーとパナソニックがタッグを組んで東芝に対抗し規格競争に勝利を収めましたが、その戦いに勝ってからは、通常のライバル関係に戻って販売競争をしています。  

また、横浜の中華街、原宿のファッションストリート、秋葉原の電気街などは、数多くの同業者が集まっています。個別の店同士はライバル関係にあって競争は激しいですが、一方で同業者が集積することで、他の地域との地域間競争を有利に進めることができます。  

このようにお客を集めるまでは協調し、集まったお客は奪い合いの競争をするという関係が成り立っています。  

日高屋の場合、中華街や電気街とは違い、一方的にマクドナルドや吉野家の近くに店を出していますし、商圏ももっと狭い範囲ですが、結果的に集客構造は同じようなものになっています。あの通りにいけば、ハンバーガーも牛丼もラーメンも選べる、という状態を日高屋が意図的に作り出しているのです。競争相手を利用してしまう逆転の発想。なかなか思いつくようで思いつかない見事な発想と言っていいでしょう。

外食産業の王者と軒を並べるために 日高屋が行ったラーメン屋革命!  

しかし、そううまい話ばかりではなく、ここで大きな問題が2つ出てきます。それは家賃の問題と価格帯の問題です。 マクドナルドや吉野家の店舗の多くは駅前や商店街の目抜き通り、いわゆる一等地にあります。日高屋がマクドナルドや吉野家の近くに出店しようとすれば、当然家賃も高くなります。日高屋以前のラーメン店のほとんどは、目抜き通りから一本外れた路地や、駅からは少し遠い2等地、3等地にあるか、幹線道路沿いのロードサイド店が一般的でした。これは個人経営の店が多く、規模の利益が追求できないラーメン店は原価が高くなり、一等地への出店は困難だったからです。  

また、従来のラーメン店はラーメン1杯500円~700円程度の価格が主流で、マクドナルドや吉野家の価格帯よりも一段高くなっていました。そのままの価格帯では、低価格に慣れた消費者に受け入れてもらえなく、2社に太刀打ちできません。つまり、いくらマクドナルドや吉野家の近くに店を出したとしても、従来のラーメン店と同じ収益構造では、高い家賃と高価格がネックになって、利益を出すのはとても困難でしょう。  

このネックを解消するために行ったのが、回転率を上げる長時間営業と低価格を実現するための自社工場を使ったセントラルキッチン方式です。  

それまでのラーメン店の営業のピークは、お昼の2時間程度と夜は6時から9、10時までというのが一般的で、これではとても高い家賃を払うほどの売上は上がってきません。ところが日高屋の店の大多数が深夜3時、4時までやっていますし、新宿や池袋などでは24時間営業の店もたくさんあります。昼はラーメン中心の中華食堂、夜は中華食堂+居酒屋、深夜は仕事が終わった水商売の従業員の食事という時間別のニーズに応え、回転率を最大限に上げる戦略を取っています。  

低価格を実現するための食材の加工工場の設立も早くから行い、1986年に大宮工場を、さらに規模を大きくし、最新鋭となる行田工場を2005年に開設しています。この自社工場を使ったセントラルキッチン方式の導入で、コストを下げ低価格化を実現するとともに、味をどの店でも一定水準以上に保つことができるようになりました。  

日高屋は、外食店で戦略上もっとも重要な店舗立地を競合店に近接させるという逆転の発想と、長時間営業、セントラルキッチン方式の3つの要素をうまく組み合わせ、一等地への多店舗展開という過去のラーメン店がなしえなかったビジネスモデルを見事に成功させているのです。

(新聞記事から学ぶ経営の理論 エムエス研修企画より)

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