宅建業者の調査義務範囲を明確化

(ガイドライン制定の背景)
不動産において過去に人の死が発生した場合、売主・貸主・媒介会社は事案の内容・時間の経過・社会的影響等に応じて、買主・借主に対して心理的瑕疵として告知する必要があります。

しかし、告知義務の対象となるかどうかの基準は必ずしも明確でなく、宅地建物取引業者によっては、人の死に関する事案の全てを告知しているケースもあり、負担が過大であるという指摘がありました。

今回、国土交通省から発表された「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」(以下とする)は、現時点で妥当と考えられる一般的な基準を示すことで、告知義務の対象を明確化し、トラブルの未然防止を図ることを目的としています。

ガイドラインでは「宅地建物取引業者の対応を巡ってトラブルになった場合には、行政庁における監督に当たってガイドラインが参考にされる」とされており、ガイドラインを遵守している限り、行政による監督処分の対象にならないと言う意味で、宅地建物取引業者の負担軽減が期待されます。

(告知義務が否定される場合)
ガイドラインでは、次の場合には、人の死について告げなくてもよいとされています。

①賃貸借・売買取引において、取引の対象不動産で発生した自然死・日常生活の中での不慮の死(転倒事故・誤嚥など)。但し、長期間にわたって人知れず放置されたこと等に伴い、特殊清掃や大規模リフォーム等(以下[特殊清掃等]という)が行われた場合は告知義務の対象。

②賃貸借取引において、取引の対象不動産・日常生活において通常使用する必要がある集合住宅の共用部分で①以外の死または特殊清掃等が行われた①の死が発生(特殊清掃等が行われた場合にはその発覚)から概ね3年間が経過した後である場合。

③賃貸借・売買取引において、取引の対象不動産の隣接住戸・日常生活において通常使用しない集合住宅の共用部分で発生した①以外の死及び特殊清掃が行われた①の死。

(告知義務が肯定される場合)
前期①~③以外の場合に宅地建物取引業者は、人の死に関する事案が、取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合にはこれを告げなければならないとされています。(④)

告知義務の対象とされた場合、事案の発生時期、場所、死因(自然死・他殺・自殺・事故死等の別)及び特殊清掃が行われた場合にはその旨を告げるものとされています。しかし、氏名、年齢、住所、家族構成や具体的な死の態様、発見状況等を告げる必要はなく、貸主・管理業者から不明であると回答された場合、あるいは無回答の場合にはその旨を告げれば足りるとされています。

(死因・死亡場所 期間の経過)
ガイドラインを死因・死亡場所・期間の経過という観点から整理すると、次の通りになります。

1.死因
自殺・他殺の場合、告知義務の対象となります。(前記④)。自然死、事故死の場合は、原則として告知義務の対象外ですが、発見が遅れ、腐敗等の事情により特殊清掃や大規模リフォームを行った場合には、告知義務の対象となります。(前記①)。

2.死亡場所
取引の対象不動産の隣接住戸・日常生活において通常使用しない集合住宅の共用部分で発生した場合は、自殺又は殺人、自然死による特殊清掃等、事故死による特殊清掃等の場合でも、告知義務の対象外となります(前記③)。

3.期間の経過
賃貸借の場合、告知義務の対象となる場合でも、発生後3年を経過すれば、原則として告知義務の対象外になります(前記②)。